ツルの倍返し

ツルの倍返し

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。

おじいさんは、毎日のように山や野原や湖へ出かけては、ワナを仕掛け、鉄砲を撃ち、ときには手づかみで、キツネにミンクにテン、ワニ、ゾウ、そのほかタヌキやイノシシやウサギを捕まえておりました。おばあさんは、そのミンクやテンの毛皮をコートにして、ワニの鞄や象牙の首飾りを身につけ、表の社交界と裏の密売組織を渡り歩いておりました。

ある日のことです。いつものようにおじいさんがワナを確認しに行くと、そこには真っ白なツルがかかっておりました。
「うーん、ツルの肉は硬くてまずいし、問屋は羽毛なんて扱ってないし、いったいどうしたものか」
おじいさんは少し悩みましたが、せっかくの獲物ではあるので、ひとまず家に連れて帰ることにしました。

おじいさんは家に帰ると、納屋に行ってツルを鎖につなぎ、それから羽をむしってみました。
「お、意外とこうやって見てみると上質な羽毛なのかもしれないな」
おじいさんは喜んで、その翌日にでも町に行って売ってみることにしました。それから一緒に捕まえてきたキツネの毛皮を剥ぎ、その肉の破片をツルに与えました。
「キツネの肉も臭くてまずいからな。好きなだけ食っていいぞ」
ツルは嫌そうな反応をしましたが、おじいさんは昔フォアグラを生産していたこともあって、慣れた手つきでツルのくちばしを無理やり押し開けると、そこにぐいぐい肉を詰め込んでいきました。

さて、翌朝のことです。おじいさんはさっそく町にやってきて、
「ミンクー、テン―、それからツルの羽毛ー、ツルの羽毛はいらんかねー」
と言いながら大通りを歩きました。
「お、今日はツルの羽なんてあるのか。何枚かおくれよ」
そう言ってきたのは帽子屋でした。なんでも一風変わった帽子をつくりたいらしく、試しにツルの羽を織り込んでみたいそうです。
「はいよー。お代は今回はいいや、また次も買う気になったらそのときに払っておくれ」
おじいさんはそう言って、帽子屋のおじさんに持ってきた羽を全部渡しました。

おじいさんが帽子屋を出ようとすると、なにやら戸口に小柄なおばさんが立っておりました。そう、彼女はおじいさんととても仲が悪い、動物愛護団体の職員なのでした。
「おじいさん!ミンクにテンに、今度はツルですか!?いったいあなたは動物がかわいそうだと思わないのですか?」
おばさんはすごい剣幕で詰め寄ってきましたが、そこはおじいさんも慣れたものです。
「いやこれはね、たまたまワナにかかっていたツルがいて、周りに抜け落ちた羽があったから数枚拾っておいたものなんだよ。ツルは今でも元気いっぱいだし、なんなら家に来て確認してみるといい」
そう言いながら胸のうちでは、ツルが勝手に逃げたことにして証拠を隠蔽しておけばいいか、と思っておりました。
「ええ、ぜひそうさせてもらいますわ。ちゃんと動物福祉に配慮した飼育環境なんでしょうね!?」
動物愛護のおばさんはそう言って、家までついてくることになりました。

2人が家につくと、ひとまずおじいさんは動物愛護のおばさんを母屋に待たせておいて、自分は納屋に向かいました。
(さあて、ひょっとするとあの帽子屋が買うかもしれないし、今のうちに残ってる羽を全部むしり取っておくか)
そう思いながら納屋の扉を開けた、その瞬間です。
グサッ
いったいどうやって鎖から抜け出したのか、ツルが柱の上で待ち構えていて、いきなりくちばしでおじいさんの右目を突き刺したのです。
ウグッ
おじいさんが右目を押さえると、その手の隙間から今度は左目をグサッと突き刺しました。
「ウガッ、何も見えない。くそっツルのやつめ、抜け出しおったな。鳥のワナなんて仕掛けたことがないから鎖が甘くなってしまったわい」
そう言いながらジタバタしているおじいさんを、さらにツルはくちばしで突き刺し、髪の毛をむしり取り、皮膚をずたずたに引んむき、内臓を引き出して突っつき、それから優雅に飛び去っていきました。
「ギャーギャギャ、ギャギャーギャギャ」
ツル語で「片目には両目を、片腕には両腕を」といった意味です。

一方そのころ動物愛護のおばさんが母屋で待っていると、おばあさんが帰ってきました。それもただの恰好ではありません。全身をミンクの毛皮で包み、大きな深紅のサンゴを両手に抱えているのでした。
「クーッ、陸の生物だけでなく海の生物まで殺戮するとは。あなたたちは本当に残酷だわ!」
そう言うなり、カッとなった動物愛護のおばさんは近くにあったナイフをつかんで、おばあさんをメッタ刺しにしてしまいました。

我に返ったおばさんが奉行所に出向き、ことの次第を説明すると、現場検証ということで奉行様がおじいさんの家までやって来ました。
「おや、この納屋で倒れているおじいさんもあんたが殺したんだろ?2人分の殺人容疑で逮捕する!」
2人が普段から仲が悪かったことを知っている奉行様には疑う余地がありません。おばさんはおじいさんについては身に覚えがありませんでしたが、完全に気が動転しており、そういえばそんなことをしてしまったかもしれないなと思ったのでした。

めでたし、めでたし

 

参考
鶴の恩返し あらすじ
「鶴」はかつて貴重なたんぱく源だった

過去記事
歩けメロス