学生自治2.0+αでは、全国学寮交流会が編纂する雑誌「RYOUTONOMY」から、令和の時代に全国で学生自治を実践している皆様へのインタビュー記事をWeb公開していきます。今回は富山県立大学DXセンター(当時)を舞台に、教職員や地域を主体的に巻き込みつつ学生自治組織を展開している、富山県立大学博士後期課程(当時)の伊達慎之助氏へのインタビュー記事(第一回)です。
(第二回はこちらからどうぞ「交渉による自由」 富山県立大学伊達慎之助氏インタビュー :学生自治2.0 +α(第二回) | 千万遍石垣))
それでは本編をどうぞ!
(以下、本編)
学生自治の正の側面とは何か。これまで見てきたように、学生自治空間があれば、大学の主権を現場に帰属させ貴族意識を高めることが出来る。自分たちの空間を自分たちで作れるからである。同時に大学を真に民主的に運営し、大学を地域社会や産業界の起点とすることも可能である。今回は自治空間の構築、並びに自治空間と地域との連帯の一例として、富山県立大学DXセンターの例を取り上げようと思う。
富山県立大学は平成に元号が変わってすぐ(平成2年)に設立された新しい大学であり「ドンドン・マスマス」を合言葉にしつつ着実な発展を遂げてきた大学である。生物工学研究センターを軸に工学部がまず設立され、知能デザイン工学科、情報システム工学科及び生物工学科が当初の学科として設置された。平成21年に環境工学科、平成29年に医薬品工学科、平成31年に新学部として看護学部が設立されるなど近年の大学では稀に見る着実な発展を遂げている。歴代の県知事から高い支持を受けており、県議会答弁でも度々好意的に取り上げられている(富山県議会の議事録を参照してほしい)。
特に医薬品分野では「くすりのシリコンバレーTOYAMA」に加わり産学官の連携を主導しつつ地方創生予算を研究活動に投資し、知能・情報分野では県知事肝いりのDXセンターが開設されると共に、地域密着型の学生ベンチャーが相次いで誕生するなど、地域との連携と研究教育活動をうまくリンクさせている印象が強い。特にDXセンター周辺では自治空間に近い運営がなされており、新時代の学生自治を考える上で非常に興味深い事例となっている。この度筆者はDXセンターの黎明期から深く運営に関わっていた、富山県立大学博士後期課程の伊達伸之輔氏にインタビューを試みた。
県知事肝入りのDXセンターを舞台に学生と教員を鼓舞し、企業・学界・産業界・学生のハブとなる自治空間を構築しつつある伊達氏の手腕には以前から感服していた。とくに地域連帯については熊野寮も力を入れてきたところであり、非常にシンパシーを感じていた。この度学生自治の観点からインタビューをお願いしたところ、なんと快く応じていただいた。地方の公立大学で自治空間を作るコツや、自治寮である熊野寮との類似点・相違点など、これから自治空間を作りたい人にとって必見の内容である。
Kyoto Science(以下KS):本日はよろしくお願いいたします。
伊達:よろしくお願いいたします。
KS:本日は取材を快諾していただき誠にありがとうございます。
伊達:こちらこそよろしくお願いします。
KS:コロナ下で県大のSlackを立ち上げてから…もう3年ですか。はやいものですねぇ。
伊達:そうですね。私ももう博士課程の最終学年で、今年終了予定です。
KS:早速インタビューの方に移らせていただきたいんですけど、富山県立大、特にDXセンターやその前身となったいくつかの研究室は非常に自治空間的だと思ってまして、特に学生や教員などの現場がかなり自由に意思決定権を持っているように感じていました。この辺りはいわゆる学生自治とも共通するところがあると思っていまして、特に意思決定プロセスや地域との連帯など、熊野寮の自治の共通点が非常に大きいと思っています。これからどんどん自治空間が増えていくと思うんですけど、何もないところから自治空間を作る、というのはかなり難しいと思うんですよね。
伊達:仰る通り立ち上げは大変でした。
KS:そのあたりも含めて、後進へのヒントになると思ってるんですよ。
伊達:なるほど
KS:それでは時間も惜しいので、早速本題に入らせていただきたいと思います。
Q1.富山県立大学では、近年地域密着型の学生ベンチャーが相次いで設立されています。どんどんベンチャーが出来上がるというのは全国的に見ても珍しいと思うんですけど、そうなった経緯などありますでしょうか。
伊達:正直な結論としては、ノリです(笑)
KS:ノリですか。
伊達:その場のノリで「やっちゃえ」の精神で動ける学生がいたことで、現在のように学生ベンチャーを立ち上げる流れが出来ました。偶然にもそういったスター学生がいた、という話にも思えます。ただここ数年は意欲のある学生が増えてきたので、完全な偶然とも言えないと思いますね。もう一つ真面目な結論として、富山県が新県知事体制に変わったことが現在の状況を作ったといえます。特に、制度まわりですね。
KS:県知事の代替わり、ですか。
伊達:今の県知事さんは企業出身の方で、ベンチャースピリットにあふれているんですよね。例えば今まで大学の休学期間は3年だったんですけど、ベンチャーを立ち上げたり色々自主活動をやるには短い。そこでもっと伸ばそうという話が出来ています。
KS:なるほど
伊達:ただ学生たちを観察してみての感想なんですけど、相次いで出来たというよりかは、むしろ相次いで出来ないとそもそも続かないんですよ。ぽっと出で誰かが出てきてもそれだけでは続かない。他の大学で作ろうとするならば、まず1人目は無理やりだして、それにつられる形で制度周りを整えつつ、人間関係のある後輩をあとに続かせる形がいいと思います。何人かが続けば安定すると思いますね。
KS:その辺は熊野寮で組織を立ち上げる時と似ていますね。
伊達:あと地域密着型が多い理由なんですけど、やっぱりやりやすさがあるんですよね。地方でベンチャーを立ち上げる時って、学生と地元産業界とのコネクションが事前に出来てるんですよ。人間関係として。なのでやっぱり会社を作ってからは地域の仕事を受け持つことが多いんですよね。地域でベンチャーを立ち上げると、自然と地域密着型になると思います。
KS:その辺も熊野寮の地域連帯と同じですねぇ。
Q2.DXセンターと地域の間の連携や、その中で学部生や大学院生がどのような役割を果たしているか。
伊達:連携の方法については模索中ではあるものの、構想はあるのでそれについてお話できればと思います。学生は運営や意思決定のお手伝いをすることが主ですが、一部の学生は学外の人を引き連れて大学との連携を促すこともしています。
KS:ふむふむ。
伊達:実はDXセンターは出来てからまだ一年目の組織で、最初ということもあって学生との関わりについては模索中です。まずは半ば強制的に関わらせているのですが(笑)、将来的にはスター学生に地元企業の人が会いにくるぐらいの体制を目指しています。大学院の理想を追いかけている感じですね。まあ現実とすり合わせるのは2~3年後でいいかなぁと考えています。
KS:意思決定はどうしていますか?
伊達:正式な意思決定権はセンター長と学長が持っています。ただ学生の意見は基本的にウェルカムですね。ただ締めるところは締めていて、例えばハンモックの設置はダメでした。
KS:ハンモック、だめでしたかぁ。
伊達:だめでしたね(笑)。話を戻すと、信頼のなかで許可がある感じです。自分たちの意識としては自由にやっている感じです。制度としてはキレイではないんですけど、人間関係で運用しています。
KS:自治空間っぽい。
伊達:あと大きいのはコーディネーターの存在ですね。DXセンターの管理者が研究室のOBなので連携がとりやすいです。じつは学生時代ずっと大学に住んでいたようなタイプの人で、学生たちにもどんどん自由に動けと言ってくれる感じですね。
KS:学生側に自由にやることへの戸惑いのようなものはありますか?
伊達:ここはけっこううちが特殊なところですね。基本的には自由を魂に刻み込むようにしています。まず3年生の内から自由にやらせる先輩を見せて、自由とは何か、その実例を見せて新メンバーの魂に刻み込むようにしています。もちろんこの自由が永遠に受け継がれる保障なんてどこにもないんですけど、後輩たちにも受け継いでほしいと思っています。今のところ成功していますね。今は横のつながりというか、隣近所の研究室の自由化に取り組んでいます。例えば現DXセンター所長の研究室はとてもオープンなんですけど、それを横展開していきたい。
KS:横の研究室間のつながりもあるんですか?
伊達:まだあまり強く連携できてはいないんですけど、これから強化していければと思っています。例えば今年入ってきた3年生とは連携しやすいですね。先輩を巻き込みつつ学生間のハブになれる後輩も、育ってきています。
KS:センター長と学長が意思決定者と伺っているんですけど、今の学長についてはどう思っていますか?
伊達:情熱的な人です。例えばうちの研究室のモットーはイケイケどんどんという感じなんですけど、学長先生も同じようなカルチャーで育ってこられた方です。DXセンターのことも非常に気にかけてくださっていて、イベントに登壇してもらったり各種審査員を引き受けてもらったりと、多方面で関わってくれていますね。やっぱりメンタリティーとして情熱をもっていますので、非常に協力的です。
KS:それは凄いですね。上層部と現場層が乖離したりはしないんですか?
伊達:もちろん意識の違いはあります。ただそれはどちらかというとイズムの違いであって、それはそれで正しいと認めてるんですよね。仲違いとか意思疎通できないとかそういうことはあんまりないで。強いていえば学長が忙しいことぐらいですよね。
KS:伊達さんが博士課程(D)の最終学年ということですけど、もう少し下の他の学生はどうですか?
伊達:教員と自分の距離感は自分が修士課程(M)の時から変わってないですね。ただ他の学生を見ると自分よりは確かに遠いかなと思います。ボスが忙しくなって学生との時間が取りにくくなると距離感は遠くなりますね。今の修士課程までは教員かつ友人みたいなテンションなんですけど、学部生はまだ友人とまではいかないかなぁ。ただこの関係性構築を他の研究室に水平展開できるかというと微妙ですね。うちはファミリーのような濃い関係になっていますけど、かなり運に恵まれていると思ってます。研究室トップの価値観にもよりますしね。
(第二回に続く…)
本記事の初出はRYOUTONOMY第1号である。Web公開にあたり、ハイライト等の改変を行った。