のたくった文章3 空調論

のたくった文章3 空調論

今年、2025年の夏は暑かった。暑かったし、まだ暑い。ここにきてやっと、我々のようなゆでガエルにとっても、地球温暖化というのがマジだったんだな、温室効果はリアルだったんだな、と身をもって実感として悟られるような夏だった。

そのうだる熱気のなかで、重要性をますます増しているのが冷房、広く意味をとれば「空調」であろう。体温を超える気温のなかでは立っても座っても寝ても寝なくても体力が削られていく、経済活動をするにも余暇を楽しむにも、すべての人間らしい活動の前提にあるのは適切な気候が保たれていることであって、その前提を可能にするものこそが空調だ。

ここでは、この文章では、「空調」というのが、我々にとって、文化にとって、文明にとって、一体どういう意味を持ちうるのかということについて、ブラブラ考えていきたい所存。

シンガポールの初代首相、リー・クアンユーは、「空調こそ我々にとって最も重要な発明であり、歴史上の画期的な発明のひとつかもしれない。」と語っている。

空調発明以前、20世紀の大都市の多くは人間の活動に適した気候帯である温帯に位置していたが、21世紀に入り、空調が普及したことで、アジアやアフリカの熱帯地域の大都市の人口が急速な伸びを示すに至った。日本・東京がこのグローバル化が進行する時代において国際競争力をつけなければならないと誰かさんの大号令が発せられるとき、成功したアジアの世界都市としてたびたび参照されるシンガポール・香港もいまのように空調が普及しなければここまでの大都市にはなっていなかったのではないだろうか。

しかのみならず、そもそもグローバル化を支えるインフラとしての旅客飛行機自体が空調の賜物だ。旅客機の飛ぶ上空1万mは外気温がマイナス40℃、外気圧が0.2気圧、外に出れば常人なら即死してしまう。外気が危険だからといっても完全に密閉された航空機では二酸化炭素濃度が急激に上昇し短時間で呼吸困難に陥る。そのため、外気を取り入れつつ気温と気圧を維持する空調が必要だ。

飛行機を降りた先、吹き抜けの空港建築や縦横無尽に張り巡らされた地下鉄、商談相手のいるガラス張りのオフィスビル。都市、この全てが空調の機能によって支えられている。現代の巨大建築・巨大プロジェクトはすべて空調を前提としている。

宇宙開発が進めば人間は月や火星や宇宙コロニーに都市を建設して住み着くようになるかもしれない。 これも当然のことながら空調のおかげ。

IT時代を支える半導体製造工場のクリーンルームも空調だし、食物が腐らないように保存する冷蔵庫や冷凍庫もまたひとつの空調だ。

空調の本質を、人間が活動しやすいような、ノイズの少ない、いつも通りの環境に安定させること、というふうに拡大解釈するなら、海外の決済で使えるクレジットカードや、GoogleMapやセブンイレブン、知らん土地でとりあえず安牌として選べるマクドナルドやKFCやスタバもある種の「空調=環境維持装置(ビジネス継続装置)」といえるだろう。

その観点に立てば、グローバル化=世界の空調化であるといえる。ローカルな風土を吹き飛ばして、外部としてのノイズをつぶし、世界全体を巨大な内部空間=温室とすること、これが進行している。

”温室”効果というのも、大気圏を一つの空調空間として捉えた比喩だ。地球規模で空調の調子がおかしくなっているということ。「宇宙船地球号」という言葉があるけれど、グローバル化した世界のなかで我々はみな同じ空気を吸って吐いてしている。

コロナ禍においても我々が一つの空気を共有していることが前景化した。他者の呼吸そのものがリスク要因と見做され、口にマスクをし、他者から距離を取って、ステイホームしながら自分や家族だけの空調を維持することに気を配った。

ここまでは物質的な「空調」について考えてきたが、世界全体を内部空間とすることを空調の本質ととらえるならば、精神的な「空調」についてもなにかいえるんじゃないか。

場の空気という日本語の表現がある。日本人は良くも悪くも空気を読んでしまう、とされる。

ここでの「空気」とは明示的には言挙げされていない、場を共有している人たちの、暗黙の共通認識、価値観、世界観のことだ。もっと明確で有効な定義があるかもしれないが、さしあたってはこんなところだろう。

場の空気は、”共通認識”なんであるから、人がつくるもの、その場の参加者がつくるものだ。

だから、場の空気を悪くする/場の空気を読まない奴をその場に立ち入らせないことによって場の空気を維持することができる。

ならば、精神的な空気の「空調」はある種の排他性をもたらすものだ。それはコロナ禍において、県外ナンバーの車を排斥したようなものだろうか。

社会全体の生産力の向上により、物質的なモノの価値に対して精神的なモノの価値が上がっている昨今において、ある種の貴族は、ゲーテッドコミュニティ、悪い精神的な空気が入りこまないような社会を作るんじゃないのか。それは精神的な「空調」によって制御される。

精神的な「空調」を維持管理すること、メンテナンスすること自体が、悪い空気を吸うことにほかならないから、空気貴族=天竜人は場の空気の維持管理を外注するだろう。私はそれこそがポリティカル・コレクトネスであるんじゃないかと疑うものである。多様性を訴える人の喋り方はみんな似ているゾ。

天竜人は車移動が基本。door2doorで外の悪い空気を吸わない。

ただ、まあ、適度に空気の入れ替えをしないと自分たちの吐いた空気を自分たちで吸ってるだけで、窒息していくんですけどね。

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