凶悪犯!たいやきくん

凶悪犯!たいやきくん

昔々あるところに、「たいやきくん」というあだ名の若者がおりました。

その若者はある会社の経理部で働いており、毎日毎日大量の事務作業をこなしては、おやつのたいやきだけを楽しみにしておりました。たいやきさえ食べれば元気モリモリ、午後の仕事も捗るのです。

そんなある日のこと、たいやきくんの生活ががらりと変わる出来事が起きました。いつものように事務作業をしていると、どうにも計算の合わない収入に気づいたのです。上司に確認すると
「これはただのミスだから気にしなくていいよ、俺があとで修正しとくから。お疲れさん」
との回答。しかしその収入というのが、実に3億円もの大金だったのです。
「ただのミスなんかじゃないだろ、絶対ヤバいやつだろこれ」
たいやきくんは思いましたが、上司の前では顔色を変えず「そうですか、ではよろしくお願いします」とだけ答えておきました。

その日の夜のことです。たいやきくんは意を決して会社に忍び込み、金庫から3億円の現金を取り出すと、スーツケースにぶち込んでそのまま遁走してしまいました。
「3億円も入ってると重いなぁ、けど気持ちいいもんだなぁ」
これまで会社一筋で働いてきたたいやきくんにとって、初めての解放感でした。
「そうだ、久しぶりにサンゴにでも行くか」
たいやきくんはそう言ってスーツケースから札束を一掴み取り出すと「ももいろサンゴ」というキャバクラに向かい、朝まで飲み明かしました。

それからの毎日は、実に楽しいことばかりです。
携帯電話は壊して海に捨て、ちょっと顔を整形してから、田舎の廃墟を拠点に生活しておりました。たまに地元のヤンキーに絡まれたりはしましたが、違う廃墟に行けば済むことです。

そんなたいやきくんでしたが、一つ不満がありました。それは潜伏生活をしていると良質なたいやきが手に入らないことです。田舎にもたいやきは売っていましたが、どうも純度が低くて、おまけに高価なのです。
「こんなたいやきじゃ全然ダメだ、もう目玉がクルクル回っちゃう。よし、またいつものところで買おう。こっそり行けばバレないだろ」
たいやきくんは決心して、昔働いていた会社の近くに戻り、たいやきの売人と接触しました。
「あー、やっぱりこの味だよなぁ、ぶっ飛ぶぜ」
たいやきくんが恍惚としていると、
「薬物所持の現行犯で逮捕する」
売人のうしろから警官が出てきて、たいやきくんの両手に手錠をかけました。

「あちゃー、ちょっとこげちゃったなぁ」
たいやきくんは混濁した意識のなか呟きました。

めでたし、めでたし

 

解説
【解説】凶悪犯!たいやきくん

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