33匹の子ブタ

33匹の子ブタ

むかしむかし、あるところに、33匹の子ブタがおりました。33匹の子ブタは、広い原っぱで毎日ゴロゴロしながら、幸せに暮らしていました。

そんなある日のことです、原っぱにオオカミさんがやってきました。
「うっしっし、ここには太った子ブタがたくさんいるわい。ワオーッ」
オオカミさんの恐ろしさを知らなかった子ブタさんたちは、逃げるのが遅れてしまい、子ブタの長男、次男、三男はいっぺんに食べられてしまいました。
「うーん、満腹満腹」
オオカミさんは、森に帰っていきました。

「たいへんだ、どうしようどうしよう」
残された子ブタさんたちは大慌てです。

四男、五男、六男、七男の子ブタさんたちは、普段食べているワラを山にして、そこにもぐりこみました。
「これで安心だ。隠れていれば見つからないだろう」

八男、九男、十男の子ブタさんたちは、一緒になって地面を掘り、深い穴をつくりました。
「これで安心だ。さすがのオオカミさんも、深い穴には入ってこれないだろう」

十一男、十二男、十三男の子ブタさんたちは、近くにあったドラム缶や木材を組み合わせて、頑丈なバリケードを作りました。
「これで安心だ。せっかくならゲバ棒とヘルメットも欲しいけど、とりあえず大丈夫だろう」

十四男の子ブタさんは、3日前から行方不明になっていました。

十五男と十六男と十七男の子ブタさんたちは、原っぱに生えていたドクダミを踏みつぶし、その苦くて臭い汁を全身にこすりつけました。
「これで安心だ。こんな苦い汁なんて、なめるだけでも耐えられないだろう」

十八男と十九男と二十男と二十一男と二十二男と二十三男と二十四男と二十五男の子ブタさんたちは、近くにあった人間の村に一緒に行きました。
「人間さん、助けてください。原っぱにオオカミさんが来て、長男と次男と三男の子ブタが食べられてしまいました」
「そりゃあ大変だ。君たちはこの村にいるといい。僕らが守ってあげよう」
「これで安心だ。だって人間さんは鉄砲を持っているもの」

二十六男と二十七男と二十八男の子ブタさんは、33匹のなかでもちょっと変わっていることで有名でした。
「ぐしししし、これで安心だ。さすがのオオカミさんもこれには参るだろう」
そう言いながら、原っぱの隅っこで何かをごそごそとしていました。

二十九男と三十男と三十一男の子ブタさんは、まだ生まれてまもない小さなブタさんでした。
「ま、いっか」
そういって、原っぱでゴロゴロしていました。

三十二男と三十三男の子ブタさんは、オオカミさんが原っぱに来たとき、ちょうど生まれてくるところでした。
「この世は苦難に満ちているなぁ。しっかり修行して解脱しなければ」
そう話し合っていました。

さて、翌日のこと。オオカミさんが、また原っぱに現れました。
「ふっふっふ、今日もたらふく食べてやるぞ」
そう言いながら、フンフンとあたりの臭いをかぎだしました。
「お、このワラの山から、なにやらいい匂いがするぞ」
そう言うなり頭からワラの山に突っ込んで、たちまちにして四男と七男の子ブタさんを食べてしまいました。
「大変だ、見つかってしまった」
五男と六男の子ブタさんは、慌てて逃げていきました。
「ふん、まぁお前らはまた今度にしといてやる」
オオカミさんはそう言いながら、あたりを見回しました。
「お?こんなところにポッカリ穴が開いているぞ」
オオカミさんが穴の底を覗きこむと、八男、九男、十男の子ブタさんたちが身を寄せ合って隠れていました。
「ふん、無駄な抵抗だな」
そう言うなり、さっき崩したワラの山をかき集めては、穴にドカドカと放り投げて、上から踏みつけていきました。

「なんて非豚道的なことをするんだ!」
そんな叫び声が聞こえてオオカミさんがキョロキョロ見渡すと、ドラム缶や木材をかき集めた壁の内側に、十一男、十二男、十三男の子ブタさんたちがいるのが見えました。
「お前らそんなガチガチの囲いを作ったら、外に出られないだろう」
オオカミさんはそう言うと、その場で臭い臭いフンをして、囲いの内側に投げ込みました。
「まったく、馬鹿らしくってなんだか食欲が失せたわ」
オオカミさんは森に帰っていきました。
「やったー、やっぱりドクダミは効果抜群だったね!」
十五男と十六男と十七男の子ブタさんたちは喜びました。

その日の夜、オオカミさんが森の中で一休みしていると、ヒグマさんがやってきました。
「オオカミさん、ここ最近お腹いっぱいで森に帰ってくるね」
「そうなんだ、実はあそこの原っぱに子ブタさんがたくさんいて食べ放題なんだ。君も一緒にどうだい?」
「いいね」

翌朝、さっそくオオカミさんとヒグマさんは原っぱに出かけました。
「うわー、今度はヒグマさんもいる!」
原っぱにいた子ブタさんたちはとても驚きました。しかし、二十六男と二十七男と二十八男の子ブタさんたちだけは、何やら楽しげな表情です。
「牙をつけて、茶色い毛皮を被って、よし。これでイノシシだ」
しかしその変装はすぐに見破られ、ヒグマさんとオオカミさんに食べられてしまいました。
「うん、ここの原っぱの子ブタもなかなか美味しいね。でも人間の村に行けばもっと美味しいものがあるよ」
「そうなんだ。これまで人間が怖くて近づけなかったけど、今日はヒグマさんと一緒だから行ってみようかな」
オオカミさんとヒグマさんは、原っぱにいる残りの子ブタさんたちを無視して、ずんずんと人間の村に入っていきました。

パンパンパン

人間の村に入るなり、鉄砲の音が聞こえました。ですが、さすがヒグマさんの毛皮は分厚くて、かすり傷にもなりません。
「人間さん、なにか美味しいものはありますか?」
ヒグマさんがそう聞くと、
「そうか、僕らを襲いに来たんじゃないのか。それなら子ブタがあるよ。昨日3匹絞めちゃったけど2匹くらいならあげる」
そう言って二十男と二十三男の子ブタさんを差し出そうとしました。
「いやいや、子ブタならさっき食べたからいいや」
「そっか。でも一匹は燻製にしてるよ?」
「ほう、そりゃあ珍しいな。頂くことにしよう」
「ところでヒグマさん、原っぱにはまだ子ブタさんはいるかね?」
「うん、まだたくさんいるよ」
「じゃああとで行ってみるよ」
そんな会話をして、ヒグマさんとオオカミさんは人間の村をあとにしました。

しばらくして、人間が数人、原っぱに現れました。二十九男と三十男と三十一男の子ブタさんは、初めて見る人間に興味津々です。
「人間さん、こんにちは。さっきまでオオカミさんとかヒグマさんが来てて、とっても怖かったんだ」
「そうか、それは大変だったね。でも今から僕らがこの原っぱに電気柵を張り巡らせるから、もう明日からはオオカミさんもヒグマさんも近づけないよ」
原っぱにいる子ブタさんたちはそれを聞いて、
「やったー、これで安心だ」
と言いました。
人間も、ニッコリと笑いました。

めでたし、めでたし。


参考文献
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/11/22.html
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/bangumi.cgi?das_id=D0005180220_00000

過去の作品「浦島次郎」
https://senmanben.com/20200829/706/