シンデルワ

シンデルワ

昔々あるところに、シンデルワという美しく優しい娘がおりました。幼い頃に母親を亡くしたシンデルワは、父親が再婚した継母とその連れ子である2人の姉にまるで召使いのように扱われていました。
「鏡よ鏡、この世で一番醜いのは誰?」
継母が鏡に向かって問うと、その隣で2人の姉が
「それはそれはお妃さま、シンデルワです」
と声を変えて答えるのでした。

ある日のことです。この国の王子様がお城で舞踏会を開くことになり、姉たちはきれいに着飾って出かけていきました。ボロボロの服を着たシンデルワはもちろん連れて行ってもらえず、それどころか、留守のあいだ家中の掃除や片づけを命じられていました。
たったら たったら たらたら たらこ
たったら たったら たらたら たらこ
シンデルワは合言葉をつぶやきながら、1人でお皿を洗っていました。するといつものように床下からマッチ棒より少し大きいくらいの小人が現れ、シンデルワの肩の上に乗ったり、洗い終わったお皿の上に乗ったり、あちこち飛んだり跳ねたりするのでした。
「タラ子ちゃん、あんまりお皿の上で飛び跳ねないでね、割れちゃうから」
シンデルワは優しく言いました。

一通りの家事が終わってシンデルワがタラ子ちゃんと遊んでいると、
ピンポーン
とインターホンが鳴りました。
「おや、お客さんかしら?」
シンデルワがドアを開けると、そこにいたのは訪問販売の魔女でした。
「ホーッホッホッ、お嬢さん、本日はこのリンゴのご紹介に伺いました。なんでもこれは新品種のリンゴでございまして、食べるとそれはもう世界がバラ色に見えるのでございます。いいえ、お金はいっさいいただきません。お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。幻覚作用とかそういった怪しいものではありません。それに今回に限り、1つだけ無料のサンプルを差し上げているのでございます。ぜひお試しください」
そう魔女に言われ、シンデルワはついついリンゴをかじってしまいました。
「わぁ、なんて不思議なんでしょう。タラ子ちゃんがたくさんいるみたいだわ。みんな並んでニコニコしてるわ。それにあら、カボチャが馬車に、ネズミが白馬に見えるわ」
リンゴを食べたシンデルワには、薄汚れた布切れがきらきらと輝くガラスの靴に見え、ボロボロの服が真っ白いドレスに見えるのでした。
「それから言い忘れましたが、そのリンゴの作用は深夜0時をすぎると切れますのでご注意ください」
魔女は忠告しましたが、シンデルワはもうすっかり興奮してしまって、ろくに話の続きも聞かずに舞踏会に行ってしまいました。

さて、シンデルワが舞踏会に到着すると、そのみすぼらしい身なりのせいですぐに護衛の兵士につまみだされてしまいました。
ドサッ
しかしシンデルワが放り出されたのは外ではなく、舞踏会の隣の部屋でした。しかもそこにはなんと、ダリの「ナルシスの変貌」と「皿のない皿の上の卵」が掲げられているではありませんか。
「タラ子、疲れたでしょう。私も疲れたわ……。なんだか、とても眠いわ……」
シンデルワはそう言うと、そっと目を閉じて眠ってしまいました。すると天井から天使たちが舞い降りてきて、2人の魂を天国に連れていくのでした。

めでたしめでたし

 

参考
シンデレラ
白雪姫
たらこ・たらこ・たらこ
フランダースの犬 柳田理科雄

過去記事
推理合戦 心のねじれた男