インフレが必ず来る理由

インフレが必ず来る理由

問:インフレは来ないのではないか?

答:インフレは必ず来ます。その理由を説明します。

まずインフレとは、物価が持続的に上昇する(=通貨価値は減少する)現象のことです。経済成長(好況)と結び付けられることも多いですが、石油危機に端を発する1970〜80年代のようにスタグフレーション(=インフレかつ不況)が10年近く続くこともあります。

世界では既に2020年頃からインフレが始まっています。原因は主に、コロナ禍における現金給付により各国のマネーサプライが瞬間的に増大したこと、工場などの稼働停止・サプライチェーン再構築に伴う供給力の低下、各国中央銀行が量的緩和を開始したこと、などです。それに加え、2022年に入り世界屈指の食糧や資源の生産国であるロシアとウクライナで生じた問題により、食糧を始めとする資源価格が高騰しています。また、5月中旬には世界2位の小麦生産国であるインドが小麦の輸出停止を発表するなど、影響は波及しています。

米国では昨年12月に前年同月比で消費者物価指数(CPI)の7.0%上昇(年率、以下同様)を記録しています。これは1982年6月以来、約40年ぶりの数値です。その後現在に至るまでCPI伸び率は8.0%前後で安定的に(安定は悪ですが)推移しています。

インフレを抑えるために有効な政策は金融政策(金融引き締め)です。これは各国の中央銀行の仕事で、政策金利を上昇させたり、中銀が保有する資産を市中に売却しバランスシートを縮小させることで実現します。イングランド銀行が世界に先駆けて昨年12月に利上げを開始、米国のFRBも今年3月から利上げを開始しています。例えばFRBの利上げは、約1ヶ月ごとに行われる政策金利決定会合(FOMC)で決定されます。1回当たりの利上げ幅は0.25%がセオリーですが、5月のFOMCでは一度に0.5%上昇させることが決定されました。これは22年ぶりのことで、インフレが米国社会と経済に深刻な影響を及ぼしていることを反映しています。また、6月からバランスシートの縮小を開始することも発表されています。しかし、現在の政策金利は0.75〜1.0%であり、年率7〜8%のインフレを止めるには全く十分ではありません。過去にFRBは1981年頃、深刻だったインフレを抑えるために政策金利を20%近くまで引き上げたことがあります(参照:ボルカー・ショック)。そのため、少なくとも今後1〜2年程度は世界的なインフレが進行・持続するとの見方が一般的です。

日本の現状はどうでしょうか。

まず日本は、石油などの資源・食料を大きく輸入に頼っています。そのため、海外のインフレが近く日本に波及することはほぼ確定的です。実際、4月の輸入物価指数は前年同月比+44.6%、円ベースで2021年3月から14ヶ月連続で前年比プラスとなっています。

4月のコアCPI(生鮮食品を除いた!物価指数)上昇率は前年同月比で2.1%でした。消費増税の影響を除くと約13年ぶりの上昇率です。また、8ヶ月連続で上昇しています。このため、既に日本でもインフレが始まっていると考えられます。

インフレになれば、日本の中央銀行である日本銀行が金融引き締めを行って、インフレを抑えれば良いのではと考えるかもしれませんが、事情はもう少し複雑です。

日本銀行は2013年から黒田総裁の下で異次元の金融緩和を実施しています。通常の金融政策では、数ヶ月で償還される政府短期証券などを買い入れるのですが、量が多く存在しないので、日銀は10年以上の長期国債を年間80兆円ずつ購入し始めました。2020年には国債購入額上限を撤廃し、2021年は13年ぶりに日銀保有の国債残高が減少に転じましたが、今年2月からは長期金利が0.25%より少しでも上昇すると日銀が国債を無制限に買い入れて金利を下げる指値オペを実施しています。このように日銀は現在、インフレを抑える金融引き締めではなく、金融緩和を行っている状態です。

金融緩和の終了は、市場への影響を最小限にするため長い時間をかけて行われます。米国ではFRBがテーパリング(金融緩和を減速させていくこと、2021年11月開始)の年内開始をほのめかす「予告」を2021年春頃から行っていたくらいです。そのため、日銀においても、テーパリングの予告すらされていない現状から、予告→テーパリング開始→金融緩和終了→金融引き締め開始までは、かなり距離があり、日本国内でインフレが進行しても金融政策による対策は当分先にならざるを得ないと推測されます。

加えて、日銀は金融引き締めを打てないという見方もあります。上述のように日銀は低金利で長期国債をGDPと同額程度(2021年末で521兆円)まで買い入れているため、利率が上昇すると評価損を計上し、10兆円程度の日銀持ち資産を食い潰すため満期を待たずに国債を市中に売却することができません。また、金融引き締めの方法には日銀当座預金(今年4月現在で約562兆円)に対する付利利率(市中銀行が日銀から受け取る利子、現在0.1%)を引き上げる方法もありますが、これを数%に引き上げるだけで同様に日銀は債務超過に陥るため、これも実際には行うことができないのではないかと考えられます。

そのような場合、日本政府が日銀に財政支援することも考えられなくはないですが、現在日本政府は支出の多くを新規国債発行に依存しており、その国債は事実上日銀が引き受けているため、金利が数%に上昇し当の日本政府が国債の利払いに追われている状況で、日銀を助け得るとは思えません。

なお、日銀保有国債の平均残存期間は8年程度と目されており、そのような長い期間、日銀が債務超過で耐え得るかは不明です。

金融引き締めを行わないとインフレが進行しますが、現在日本政府・日銀は事実上金融引き締めを行う手段を持っていないのではないかと考えられます。すなわち、インフレが進行します。

金融緩和を行い続けなければならないとすると、日本円に対する信頼が低下し、円安が進む可能性もあります。国際決済銀行(BIS)が今年2月に公表したところによると、通貨の実力を示す実質実効為替レートにおいて日本円は50年ぶりの低水準を示しており、かつてのようにリスクオフの円高にはならない可能性が指摘されています。日本は、石油などの資源・食料を大きく輸入に頼っているため、円安はインフレに直結します。