現実化する学生への言論統制 ―京都新聞コラムから―

現実化する学生への言論統制 ―京都新聞コラムから―

京都新聞に、学生へのインタビューを申し込んだ際の大学側の驚くべき回答についてのコラムが掲載された。(『京都新聞』「記者コラム虫めがね 学生の声の『加工』」2021年2月13日付朝刊、8面)

要旨は以下の通りである。

京都新聞は、大学のコロナ禍における現状を取材するために、某大学に取材を申し込んだ。その際に、大学側と学生の双方に話を聞こうと考え、学生にも話を聞きたいと話したところ、その大学の担当者は、「本学の見解と異なることを言わない学生を指定しますので、その学生に話を聞いて欲しい」と言い、さらに、「取材を受ける学生とは事前に話す内容をすりあわせる」とまで発言した。この条件は到底呑めないと考えた京都新聞は、別の大学で取材を行った。

これは、恐ろしい事態である。京都新聞のコラムでは、件の回答を行った大学について、「京都市内のある大学」としか述べていないが、これを読んでくださっている方々の多くは、どこの大学か予想がついているのではないだろうか。証拠はないけれど、僕たちのよく知っている大学であろう。むしろ、そうであってほしい。こんな異常事態があらゆる大学で起こっているのなら、それはもう異常事態ですらなくなってしまうからである。

そこで、もはや指摘するまでもないかもしれないがこの担当者の発言の何が問題かということを述べておきたい。

まず、1点目はこの担当者が、学生は「本学の見解」と異なる発言をしてはならないと考えている点である。彼らにとって、学生は、大学の見解を忠実に守ることが当然であり、それに対する疑問の声や相反する意見を述べることはあってはならないことであるのだ。つまり、この担当者は回答を通じて、学生は大学と異なる考えを持つべきではないと明確に宣言したも同然である。

次に2点目として、大学がその見解を吹き込んだ学生を用意できると考えている点が挙げられる。僕は、1点目よりもこの点に、気味悪さを感じた。秘密警察や親衛隊のようなものを想起したからである。

大学当局の見解をプログラムされた学生は、当然大学の見解に反することは言ってはならないという考えも植え付けられているのであるから、他の学生によるそのような発言を耳にしたなら、それを大学当局の「規範」を破ったものとして認識するに違いない。そこで、このロボットのような学生たちは、「規範」を破った者として学生を当局に報告したとしても不思議はあるまい。あるいは、その場合は直ちに密告するということも予めプログラムに組み込まれているかもしれない。これが、僕が秘密警察を想起したゆえんである。

とんだ空想であると笑われるかもしれない。僕も笑い飛ばしたいようなディストピア的世界である。しかし、学生の言論が弾圧される一方で、当局の息のかかった学生が大学のスポークスマンのようにして活動するとすれば、これは残念ながら十分起こりうることであるように思う。

僕たちのよく知っている大学では、学生が、職員の職務を妨害する行動をとったという理由で、重い処分が下り、学内外で大きな議論を呼んでいる。

しかし、この担当者の発言は、「某大学」では上のような行動をとらずとも、大学当局の見解と異なる意見を口にするだけで、処分の対象となり得るということを示唆している。繰り返し主張されてきていることだが、自分は反抗的な行動をすることはないから関係ないと考えることは、危険なようである。大々的な行動を起こさずとも、大学の見解と異なることを口にしただけで処分される未来が、残念ながら迫ってきているように思われるからだ。

「某大学」が僕たちのよく知っている大学ではないかもしれない。しかし、そうであったとしても、「某大学」が示す様相は、決して他人事ではない。

 

2/16追記:以下のリンクから、この記事を見ることができる、というご指摘を頂きましたので、掲載しておきます。会員登録が必要なようですが…。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/503493

また、一部書式を変更しました。