「いのちの洗濯」のはなし

「いのちの洗濯」のはなし

(投稿:酔鯨ほえ~る)

ざぱ~ん……カコーン……。

 

目を瞑って想像しよう。ここは、皆さんの住むまちの街角にある、少し古ぼけた小さな銭湯。あたたかい笑顔で迎えてくれる番台さんと賑やかなテレビの音。なぜ人類というものは、あたたかいお湯につかることで癒されるのだろうか。

 

さて、ここまで語っておいてなんだが、実は私は大のお風呂アンチだ。実家では毎日怒られないとお風呂の準備ができないくらいの。今はわざと汗をかかせ、強制的に自分をお風呂に入れさせるほどの。髪や体を洗うことが面倒なのもさることながら、お風呂からあがった後のヘアオイルを塗って、化粧水と更に乳液まで塗ってドライヤーで汗をかきながら髪を乾かすとかいう、こんなに面倒な工程、他にあるだろうか。

 

しかしこんなお風呂アンチな私でも、「銭湯」だけは愛してやまない。

 

「風呂は命の洗濯よ」。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」で、葛城ミサトが碇シンジを部屋に招いたシーンのひとセリフで、私が銭湯を愛する理由だ。銭湯、またお風呂は身体だけでなく精神ですら綺麗にしてくれる効能があるのだ。実際、自身も銭湯に通うことを習慣化したことでメンタルがリセットされ、「来週も気持ち良いお湯につかれるように頑張ろう」と前向きな気持ちにさせてくれる。

 

なぜお風呂アンチの私がこんなにも銭湯に惹かれ、狂ったように通い詰めるのか。様々な観点で銭湯について語りつつ、具体的な魅力を述べる。京都市内を中心に列挙するため、気になる銭湯があれば是非ざっぱーんしていただきたい。

 

「梅湯」にある「パインアメ風呂」はご存じだろうか。

上京区にある梅湯と言えば京都駅近くにある、ネオンが光り下町情緒溢れる銭湯である。外観のレトロ具合に惹かれるのは勿論のこと、お風呂場には壁には手書きであたたかみのある「梅湯新聞」が貼られ、読みながら湯につかる瞬間は極上のひと時だ。その中でも特にパインアメ風呂は、大阪発祥の「パインアメ」の色と匂いのする何とも風変わりなお風呂になっている。少しぬるめのため、熱いお風呂が苦手な方にも楽しめるものとなっている。期間限定らしいため早めに行くことをおすすめする。(以下「京都銭湯」の専用URL)

https://twitter.com/umeyu_rakuen?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

 

インコに見つめられながら入浴……?上京区にある「松葉湯」にある「インコ風呂」は、インコと一緒にお風呂に入る……のではなく、ガラスのケージに入っているインコを眺めながら、お風呂につかれるというものだ。時間を忘れてインコたちの挙動をぼーっと観察するひと時は最高である。互いの口をつつきあう様子を見るとなんとも言えない気持ちになるが。(以下「京都銭湯」の専用URL)

https://1010.kyoto/spot/matsubayu/

 

サウナとなれば更に未知の世界になるだろう。なぜ暑い場所にいちいち何分も入って汗をかくのかと疑問を持つ人も少なくはないだろう。

サウナの魅力については一言、「ととのう」ことと言いきれるだろう。サウナ→水風呂→お風呂→休憩を繰り返すところである瞬間、全身がえも言えぬ感覚に陥るのだ。地球に吸い込まれるような、また恍惚と表現してもしきれないような……。敢えて悪い言い方をすると「キマる」感覚と同等に近いかもしれない。これを楽しみに毎回サウナルーティンを楽しんでいる。サウナ室に入った瞬間、ぶわっと汗が吹き出し心臓の鼓動が早くなる感覚は拷問で、その後水風呂で心臓がキーンとなり、食道が結露で冷え、全身が水に溶けていく感覚はまさに「死を体感することで生を実感する」と言えるだろう。そんな「サ道」(サウナ道)に惹き込まれた私が特におすすめしたい京都のサウナを紹介する。

 

左京区にある「東山湯」にあるサウナは、ビートルズの曲が流れていることが面白いポイントである。軽快なビートルズの曲を口ずさみながら、木のにおいがするサウナで汗を流す。異様に威力の強いジェットバスに驚くのも楽しい。脱衣所の壁やグッズにもビートルズの愛が溢れに溢れた少し変わった銭湯である。銭湯でさっぱりした後には、隣にあるバー「RINGO」でビートルズの曲を聴きながら一杯……なんていかがだろうか。……最高。(以下「京都銭湯」の専用URL)

https://1010.kyoto/spot/higashiyamayuonsen/

 

北区にある「衣笠温泉」は三階建ての銭湯という魅力もさることながら、「氷サウナ」という風変わりなサウナにも惹き込まれる。サウナと言えば暑いのが定説であるべきなのに、水風呂の前に更に身体をキンキンに冷やすという何とも暴力的なものとなっている。30℃越えも当たり前のこの時期、是非リフレッシュしていただきたい。(以下「京都銭湯」の専用URL)

https://1010.kyoto/spot/kinugasaonsen/

 

またお風呂場から出た後も最高であることを忘れてはいけない。冷えた瓶の牛乳またはビールを腰に手をあてながらぐいっ……と。テンプレのような仕草ではあるが、これがまた「生きている」ことを実感し、また「生きていてよかった」と思える貴重なひとときなのである。脱衣所でのコミュニケーションも楽しいものである。若者が銭湯に来ているのですら珍しいのか「今日も暑いね~」「どこから来たの~?」などおばあちゃんがニコニコ話しかけてくださり、ほっこりする会話が展開される。銭湯から出た後も最高だ。鴨川沿い、お酒を片手に、サウナで整いふわふわしている頭のまま、優しい風にあたりながらゆったりと歩く時間は何者にも邪魔されない、最高のひとときである。

 

いかがだっただろうか。今回は京都の銭湯のみを紹介したが、日本各地には個性溢れる魅力的な銭湯がそこかしこにある。

しかし現在、社会全体で銭湯離れが加速化している。原因として「他人に裸を見せるのが恥ずかしい」「家でシャワーをあびる方が安い」などが挙げられるだろう。しかしそんな羞恥や邪念は、いざ入ってしまえば、慣れてしまえばどうってことない。自分の世界に没入してしまうだろう。銭湯は社会からの軋轢で疲れて切っている人たちほど必要であり、一歩踏み出せば、銭湯は誰もが魅了されるユートピアだ。

 

「お風呂は命の洗濯」

 

さぁ、皆でひとっ風呂あびよう。