むかしむかし、ある村に、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。
おじいさんは村の銭湯を経営しておりました。毎日山に入って竹を取ってきては、それを燃やしてお湯を沸かし、あるいは寝椅子やゴザやししおどしなど、さまざまなものをつくっておりました。
ある日のことです。おじいさんが山へ行くと、一本の竹の根本がぼんやりと光り輝いているのを見つけました。
「おや?不思議な竹があるものだなあ」
おじいさんはそう思いながら、その光る竹を切ってみました。するとそこには、大きさが3寸ほどの、かわいらしい小さな女の子が入っていたのです。
「なんとまあ、光る女の子とは。きっとこの子は天からの授かり物に違いない」
子どものいないおじいさんは、大喜びでその女の子を家に連れて帰りました。
おじいさんが連れて帰った女の子を見て、おばあさんも大喜びです。
「まあ、なんてかわいい女の子なんでしょう。おじいさんの言う通り、この子は天からの授かり物に違いありませんね」
おじいさんとおばあさんは、その子を大切に育てることにしました。
次の日のことです。女の子を連れておじいさんがお湯を沸かしてみると、なんということでしょう。お湯はすぐに沸き、おまけになかなか冷めないのでした。
銭湯の常連客も、お湯の違いにすぐ気がつきました。
「おやおや不思議だ、体が芯からあったまる」
「医者から治らないと言われていた病気が、なんだか治ったようだ」
「5歳も10歳も若返った気分だ、体が軽い軽い」
客は口々に言いました。噂は噂を呼び、それから銭湯は大繁盛しました。銭湯だけではありません。全国から来るお客さんのおかげで、旅籠屋、土産屋、料亭、村のあらゆる店が繁盛しました。そこで女の子は、「お金を呼び込むお姫さま」ということで「かねや姫」と名付けられました。
やがてかねや姫は成長して、美しい女性になりました。病気もケガも治す銭湯に、そこで働く美しいかぐや姫。これを世の権力者たちがほうっておくはずがありません。なかでも特に熱心だったのは、環境省の大臣、国土交通省の大臣、財務省の大臣、農林水産省の大臣、厚生労働省の大臣の5人でした。
選びかねたおじいさんは、かねや姫に相談しました。
「5人のお方は、それぞれに立派な大臣たちじゃ。この銭湯は誰に売却するのがよいだろう」
するとかねや姫は、こう答えました。
「今から私のいう願いごとを叶えてくださったお方がよいでしょう」
話を聞いたおじいさんは、5人の大臣たちにかねや姫の言葉を伝え、それから1ヶ月待ちました。
1ヶ月後、5人の大臣が次々にやってきました。
まずは環境省の大臣。言い渡されていたのは「火をつけると燃える水」でした。大臣は「原油」なるドロドロとした液体を遠い異国から取りよせて、麻のヒモによくしみ込ませ、かぐや姫たちの前で燃やしてみました。
「おお、これはすごい。勢いよく燃えるではないか」
おじいさんは驚きましたが、しかしあたり一面に黒い煙がたちこめ、きつい臭いもするのでした。おまけに火はすぐに消えてしまいました。
次は国土交通省の大臣です。かねや姫からは「牛車で通ってもがたがた揺れない道」を作るようにと言われていましたが、村の道に石を敷き詰めていると「一部の地方だけ舗装するなんてひいきだ」と民衆から批判され、工事は中止になってしまいました。
そして財務省の大臣は、「次から次へとお金がわき出る財布」を持ってくるようにと言われていました。しかし、持ってきたのはタンスのような大きな箱。試しにおじいさんがお金を取り出してみると、なるほどお金は次から次へと出てくるのですが、しばらくすると突然官吏たちが銭湯に乗り込んできて「大臣の横領だ!証拠を押収する」といってタンスを持って行ってしまいました。
それから農林水産省の大臣は「やませに負けないイネの新品種」を持ってくるようにと言われていましたが、「そんなものはできるはずがない」と言って、諦めてしまいました。
最後は厚生労働省の大臣です。かぐや姫からは「国民の統計調査」を言い渡されていました。それで持ってきたのは分厚い分厚い書類の束。見ると、各地方の人口動態調査やら生活基礎調査やら医療施設調査やら勤労統計調査やら、さまざまな統計データがつらつらと書き並べてあります。それもすべて手書きで、ちゃんと書類の束はキリで開けた穴に「こよりひも」を通して綴じてあります。
「どうだ、ちゃんと約束のものを持ってきたぞ」
大臣が胸を張ってそう言っていると、官吏たちがぞろぞろとやってきて、
「やい、俺たちはただでさえ過労死ラインの残業をしてきたというのに、こんな統計のせいでさらに残業をすることになった。厚生労働省のくせに労働環境が劣悪ではないか。つまらない残業をさせるな。それから給料をちゃんと払え」
と言うのでした。大臣は返す言葉もなく、恥ずかしそうに帰っていきました。
こうして5人の大臣たちは、だれも銭湯を買収することができませんでした。
それからのち、かねや姫は明け方に起きだして、ぼんやりと空を眺めるようになりました。ときには悲しそうに、涙を流すことさえあります。心配に思ったおじいさんとおばあさんが聞いてみると、かねや姫はこんなことを言うのでした。
「おじいさま、おばあさま。私は実は地球の者ではありません。私はあそこで光り輝く、金星の都からやってきたのです。金星には満ち欠けがあります。次に満ちたとき、なにかよからぬ事件が起きるでしょう」
それから数日後、ついに金星が満ちました。よく晴れた日の夕方のことでした。何が起きるのだろうと村人が待ち構えていると、突然、空から大量の隕石が落ちてきました。
「あの隕石を撃ち落とせ」
事前に噂を聞きつけていた内閣総理大臣と防衛大臣が指示を出すのですが、しかし隕石の迎撃が憲法の解釈上大丈夫なのか分からず、自衛官は撃とうにも撃てません。
そうこうしているうちにいつの間にかかねや姫は金星に帰ってしまい、あとには無数のクレーターが残されたのでした。
めでたし、めでたし。
参考
福娘童話集 かぐや姫
過去記事
怖い饅頭