推理合戦

推理合戦

「ホームズ、これはまた難しい事件だね」
「ワトソン君、君はいつも難しく考えるからいけない。もっと現場をよく見たまえ、見落としているものがいくつもある」
ホームズにそう言われて、ワトソンは改めて事故現場を見回してみた。

2人が立っているのは古い民家の庭である。発見されたとき、被害者は大きな柿の木の下で圧死していたらしい。被害者はとっくに片づけられてしまって年齢や性別は分からないが、倒れていた姿がチョークで示されていた。今のところそれらしい物的証拠は見つかっていないようだ。ワトソンはその近くを横歩きしながら、あたりの地面を注意深く観察していった。

「ホームズ、被害者は圧死されたということだが、いったい何に潰されたんだろう。現場には何も残されていないようだね。それからこの家の軒先にはハチの巣があるが、まったく危なくってしょうがない」
ワトソンはかつてハチに刺されたことがあり、ずいぶん神経質になっていた。せわしなく動き回るワトソンとは対照的に、ホームズはどっしりと構えて動かない。
「最終的な死因は後回しでいい。それよりワトソン君、そこの地面をよく見てみたまえ」
ホームズに言われた場所を見てみると、なにやらフンを踏んで滑ったあとがある。
「ワトソン君、こんなところに普通フンなんて落ちているかね?」
なるほど確かに、庭にフンが落ちていたらすぐに掃除するものだろう。
「それからこの井戸の蓋。これも不自然な開き方をしている」
ホームズはそういうと、しばらくじっと固まったまま推理をしていた。

それからおもむろに、ホームズは笑い出した。
「はっはっは、分かったよ。犯人は君だね?」
ホームズはワトソンを指さしてじっと見つめた。

するとワトソンは顔に被っていた仮面を脱ぎ捨てた。仮面の正体は、カニであった。
「いやいや、君のほうこそ立派な悪者だよ」
カニが言うと、ホームズも仮面を脱ぎ捨てた。そこにいたのは臼であった。
「いやはやカニ君、こんな茶番をしているとなんだか腹が減ってきたな。おーい栗君、そろそろサルは煮えたかい?」
そうして臼、カニ、フン、ハチ、栗たちはみんなでサルの肉を頬張ったのである。

めでたしめでたし

 

参考
福娘童話集 サルカニ合戦

過去記事
かねや姫