販促!RYOUTONOMY!! 第6回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第六章)~

販促!RYOUTONOMY!! 第6回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第六章)~

全国学寮交流会誌「RYOUTONOMY」は、2022年に創刊された、全国の学生寮・学生自治空間をめぐる書物です。

富山県・高知県・京都府・宮城県をはじめとする各地の自治空間・実践事例・学生寮等が特集されています。

https://x.com/Gakuryou_Kouryu/status/1608823376281501698?s=20

おかげさまで各地での頒布物は完売に次ぐ完売となり、めでたく第二巻を出版する運びとなりました。

第二巻はコミックマーケット103(2023年冬)にて発売予定です。

本販促企画では、全国の学生寮・自治空間を取り上げた刊行物「RYOUTONOMY」の第二巻刊行記念企画として、昨年度配布した第一巻の記事の一部を加筆修正しつつ、順次公開していきます。

「早く全部読みたい!」と思ったそこのあなた!第一巻の紙媒体はメロンブックスで委託販売中です!是非ともご購入を検討ください。

今回は「今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論」から、第六章をご提供されていただきます。

それでは本文をどうぞ!

[本文]

6.学生自治のデメリット:コストと現実性

さて、ここまで学生自治の可能性について述べてきたが、そのデメリットにも触れなければ不公平であろう。筆者の見るところ、学生自治のデメリットとしてあげられるのは、①秩序の揺らぎ②分業化・省力化方針との矛盾③閉鎖性への疑問④学生の無能力の主に4つに分類される。

 まず①秩序の揺らぎであるが、一般に組織を維持するためには何らかの秩序(ヒエラルキー)が必要であると考えられている。大学・大学院においては教員-学生間の身分の上下関係が秩序に相当し、学生自治は秩序維持のための機構(例えば教員からの一方的な人事権や懲戒権)の正統性を破壊している。すなわち、学生自治は統治を困難にし、組織を弱体化するという主張である。

 次に②分業化・省力化方針との矛盾であるが、これは分業化による効率的な組織運営と自治概念の矛盾を指摘するものである。現代人の社会や活動は-少なくとも大学自治の概念が確立された1940年代に比べれば-複雑化しており、大学組織もまた例外ではない。複雑化する社会でうまく組織を運営するために、大学もまた運営・企画・財務・知財・総務・広報・研究等にプロフェッショナルを配備する分業化、いわばチームプレーを行っている。現代日本の大学は北米の大学に比べてプロフェッショナル、特に研究支援部門のプロフェッショナルが少ないことがかねてより指摘されており、ただでさえ分業化を勧めなければならない24。にもかかわらず学生のような素人が参加するのであれば、組織運営のコストが増大し、大学が疲弊するという主張である。

 ③の閉鎖性への疑問とは、学生自治は学生の内輪による空間であり、それゆえにいじめやハラスメントが起きやすいのではないか、あるいは、既得権益の温床となるのではないかという懸念である。

 ④の学生の無能力については、そもそも学生に大学という巨大組織を運営する能力・意思は存在しないという主張である。学生は勉学とアルバイトでただでさえ忙しいのであるから、めんどくさい大学の運営などを実行している暇はないし、大学運営は社会からも要請されていない。学生は能力的にも実質的にも大学運営の主権者ではないのであるから、おとなしく教員の言うことをきいておればよいということである。

 こうした主張は現在の現実がもつ厳しい面を確かに反映しているのではあるが、端的に言ってかなりの詭弁を含む。学生自治は学生の独裁や学生以外の人間を追放することを目的としていないことに留意して、以下の文章を読んでほしい。

 まず①についてであるが、組織運営に秩序が必要であることと、学生自治がその組織で行われることはそもそも矛盾しない。大学の理念がきちんと組み込まれた自治を学生を含めて主体的に行えばよいのだ。加えて、学生自治が仮に取り入れられたとしても、学究の都合上、並びに運営業務上の組織体系は維持可能である。学生らのもつ意思決定権・人事権が拡大されたとしても、大学組織すべてが消滅するわけではない。さらに、組織が弱体化するかどうかも疑問が残る。最大の構成員である学生が、大学という組織の目的を共有し、よりよくするために適材適所を維持しつつ邁進するのであれば、端的に言って、強い組織になるだろう。学生自治はむしろ組織を強化すると考えている。

 もちろん組織運営に絶対はなく、成功も失敗もあり得る。しかしただでさえ人手不足にあえぐ大学で、最大の構成員のコミットメントを確保できるかどうかは非常に大きいのではないだろうか。逆に自治空間を形成できなければコミットメントが下がり、今後の大学存続にすら悪影響を及ぼすだろう。

 次に②に関してであるが、これも①同様、学生自治と、全業務を学生が行うことを混同している場合が多い。大学組織が残る以上専門家は存在する。

 さらに言えば、大学の意思決定に関するプロフェッショナルは学生自治会である可能性はないだろうか。学生は学部生であっても数年、同一大学で博士課程に進学した場合であれば10年程度大学に在籍する。かつ、日々主体的に大学にコミットする集団である。昨今の短期ポスト・出向の多い大学人事を顧みると、所属年数の点でも意識の面でも、主体的な学生は他の教職員に勝るとも劣らない。しかも例えば全学規模の学生自治会の場合、大学の全学科の大学生・院生が生の体験と過去の記録に基づき方針を決定する。少数者の決定に基づく教授会や理事会に比べてどちらが真の大学の意思と言えるのかは、全く自明ではないのだ。

 加えて、一部のスキル、たとえばプログラミングや動画作製などのITスキル、デザインや楽曲制作等のアートスキルに関して言えば、むしろ学生の方が高い専門性を持つ場合もあるだろう。実際に、京都大学の学習支援ITシステムであるPandAのデザインチームの大半は学生であったし25。ほかにも筑波大学でのシラバス検索用システムの構築や26, 各地の大学で建てられているDiscordサーバーに代表される交流システムのように27,28、すでに学生が大学の環境を主体的に改良する例は多い。中には県や市などのシステムを変えつつある例もある。

 この延長線上にも学生自治は自然と構築される。大学のことをわかっている学生を大学業務に関与させ、運営や実務における主体性を担ってもらうことで、より大学に合った形で組織の専門性を高めることが出来るのだ。

 ③についてであるが、まず、自治空間の方がいじめやハラスメントが発生しやすいという証拠はない。大多数は自治空間以外の場所、例えば初等中等学校や営利企業、官公庁、上下関係が不当に厳しい研究室などで起きている。その上で指摘すると、確かに構成員が極めて少数である場合はハラスメントが発生しうる。逆らえないボスが出現するからである。例えば少人数ゼミナールやフィールドワークの場で生じるハラスメントを思い浮かべた方もいらっしゃると思う。しかしながら、理想的な自治空間、すなわち構成員が平等かつ絶対に尊重される自由な空間では(少なくともその他の空間に比べれば)深刻なハラスメント被害は起きづらいと考えている。

 この理想的な空間を作るためには、自治空間をある程度拡大させることが確かに必要である。構成員の人数・多様性を担保することが自治空間内での生きやすさを担保することに繋がるからだ。よりよい空間を作ろう。

 最後の④についてであるが、これは学生自治が今現在再興しつつあるという現実を無視している。加えて「情報の非対称性」「予算・権限の有無」により、学生側が今現在不利な状態に置かれていることを無視している。逆に言えば、学生自治という概念が再度広がり、運営に必要な情報を得ることが出来、予算と権限を学生自治会が持てば、自ずと学生は大学運営の主権者となるだろう。大学教員だって最初は運営の素人だったのではないですか?。

 現に大学でもより小規模な組織、例えば研究室やゼミナールでは、日々の運営や方針決定を学生が大きく担うことは現に多い(第二章等やRYOUTONOMY内の他の記事・先行事例を参照のこと)。こうした小組織では学生が十分な情報にアクセスでき、権限を持っているため自治が比較的成立しやすいのだ(妨害さえされなければ)。

 部局や大学といった大組織であっても、同様に学生らに権限と情報を与え、組織だった行動を可能とする学生自治会を整備さえすれば、学生は十分に大学を主体的に運営することが可能であると思われる。学生はいまでも大学の主権者であるが、能力的にも実質的にも大学を動かすこともできるのだ。こうした自治活動に奨励金を出せば、学生らの生活も安定し余裕が出るだろう。例えば副学長や副学長補佐・監事を何名か学生自治組織から選出し、常識的な賃金を支払ってみればどうだろうか。たとえ1~2年間休学することになっても金銭的にも経歴上もプラスとなる。

 奨励金が難しくても、例えば安価な自治寮の整備など、大学として資産形成しつつ学生をサポートすることは可能である。既に京都大学の吉田寮・室町寮・熊野寮・女子寮や、東北大学日就寮といった自治寮が存在するので、これを水平展開すればよい。

 学生が生き生きと活動できる環境を学生主体で作ることが出来れば、よりよい学生が輩出され、大学の評価が高まり、社会からも必要とされる大学になるだろう。ただ単に現実を悲観的に分析するのではなく、未来を学生と共に描き歩んでほしい。

今回はここまでです。次回は12/6に公開予定です!

第1回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第1回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (目次・第一章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第2回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第2回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第二章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

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販促!RYOUTONOMY!! 第3回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第三章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

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販促!RYOUTONOMY!! 第4回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第四章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第5回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第5回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第五章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第7回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第7回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (おわりに)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

[脚注]

24.文部科学省『学術の基本問題に関する特別委員会(第4回)議事録』、2009年5月28日https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/016/gijiroku/1288079.htm

25.京都大学情報環境機構『PandA公式ガイドブック教員用マニュアル』、2017年8月10日

26. 樋口隆充『筑波大の授業DBがメンテ、困った新入生が代替ツールを“爆速開発” その背景を本人に聞いた』、2021年4月13日、最終閲覧日:2022年12月25日、https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2104/13/news126.html

27.私の知る限り、少なくとも京都大学、東京大学、高知工科大学、富山県立大学、筑波大学にはこうしたコミュニティが存在することを確認している。例えば『バーチャル東大Discord』が2021年1月30日に設立されている。最終閲覧日:2022年12月25日、https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/vutd

28.「一応理系男子」『【大学生コミュニティを作れる】Discord Student Hubの使い方 (Discordの機能)』、2022年2月17日、最終閲覧日:2022年12月25日、https://scienceboy.jp/max/2022/02/discord_student_hub_how_to/