全国学寮交流会誌「RYOUTONOMY」は、2022年に創刊された、全国の学生寮・学生自治空間をめぐる書物です。
富山県・高知県・京都府・宮城県をはじめとする各地の自治空間・実践事例・学生寮等が特集されています。
https://x.com/Gakuryou_Kouryu/status/1608823376281501698?s=20
おかげさまで各地での頒布物は完売に次ぐ完売となり、めでたく第二巻を出版する運びとなりました。
第二巻はコミックマーケット103(2023年冬)にて発売予定です。
本販促企画では、全国の学生寮・自治空間を取り上げた刊行物「RYOUTONOMY」の第二巻刊行記念企画として、昨年度配布した第一巻の記事の一部を加筆修正しつつ、順次公開していきます。
「早く全部読みたい!」と思ったそこのあなた!第一巻の紙媒体はメロンブックスで委託販売中です!是非ともご購入を検討ください。
今回は「今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論」から、第五章をご提供されていただきます。
それでは本文をどうぞ!
[本文]
5. 学生自治のメリットその4:市民社会の醸成
自治空間で育まれた大学人が社会に出ていくことにより、豊かな市民社会が全国各地で形成される。このメリットは特に地方において大きい。高度知的社会に対応できるようになるからである。昨今大学の存在意義がー特に地方の中小企業に就職する場合にー問われることが多い。大学院どころか大学不要論まで取り沙汰される始末である。読者の中には「大学なんて我々には縁がない!それよりも高卒人材でも働けるようにしてくれ!!そうじゃないと金が回らん!!」と考えている方もいらっしゃると思う。
私の認識はこうした考え方とはやや異なり。地方こそ学生自治により育まれた大学人、可能なら博士レベル人材が必要であるという考え方に立っている。これは第一に1)高度知的社会では知的レベル(人格とかではない!!)の足切点が常に高くなること2)足切点に達していない場合真面目に働いても富を産めない職種が年々増えており、特にこれが地方の基幹産業であった場合、地方の他職種に与える影響が大であること、すなわち、高卒でも食べていける社会からその地方を大きく遠ざけること。という2点の現実があるからである。
逆に開かれた自治空間が存在すれば、その地方に大学・大学院レベル人材を供給したり、そうした人材を可視化し(大学に集まっている!)、地元企業との交流を図ることで地域を活性化することが出来る。こうした交流が永続的に行われれば地域が活性化し、職のレベルが上がるだろう。若者がその地域にとどまる可能性も高まる。こうした交流は自由と心理的な安全性が担保された空間でなければ達成されにくいと考えており、自治空間が非常によく機能する例だと考えている。
地方に知的人材が必要と言う点に疑問を覚える方のために、小林化工株式会社(以後、小林化工)の例を紹介しよう。小林化工は福井県にある製薬会社であり、おもにジェネリック医薬品の開発・製造・販売を行っていた。北陸では医薬品産業は主要な地場産業の1つである。しかしながら品質管理体制に相当多くの瑕疵があり、2020年に睡眠薬が水虫薬に製造過程で混入するという事態を引き起こしてしまった。特別委員会による調査報告書では、上司の命令に逆らえない風土が存在したこと、品質管理部門にあまり知識のない従業員が配置されており、その教育も不十分であったこと、結果としてミスをもみ消し不具合が放置される企業風土が形成されたことが記載されている。これは小林化工に高度知的人材が十分供給されていなかったことと、対等な構成員による自治の風土が形成されていなかったことによる。
実際同報告書には ”当委員会がヒアリングを行った試験者の中には、学術的なバックグラウンドや他の製薬会社で品質管理試験業務に従事した経験を有する者もおり、これらの試験者は、一様に、小林化工における品質管理試験のあり方に強い違和感を抱いていたと述べている。これらの試験者の中には、上長から試験室エラーとして処理するように指示された際にも、それに唯々諾々と従うのではなく、反論をするようにしていたと述べる者もおり、小林化工においても、試験者としての矜持を保持しようと努めていた者がいることは事実として指摘しておかなければならない。”ことが示されている(強調は筆者による)。もう少し学術的なバックグラウンドを持つ人が増えていれば、自治空間で育まれるような連帯の風土がしっかりと醸成され企業上層部に対抗できていれば、現場の声をまとめ上げ国の理不尽な薬価改定に合理的に対抗できていれば、こうした事態は防がれただろう。
実際に起こったことは品質管理部門や工場での不具合隠ぺいであった。これらは抵抗ではなく、いわば一種の逃げである。自治の風土ではなく企業利益を重視する風土の中でおきたことである。小林化工でのこの事件の結果連鎖的に医薬品不足が発生し、それは今日(2022年12月)でも抜本的には解決されていない。(私個人にも、薬局で錠剤が手に入らないなどの多少の影響があった。)こうした事態を未然に防ぐためにも、大学や自治空間で育まれた大学人が全国各地に供給される必要があると考えている。
学問を基盤とした自治空間を大学に確立し、自治空間を基盤として全国各地に市民社会を形成する。これが出来れば高度知的社会に参画できる人間が大幅に増える。いや、そんなに大袈裟な話ではなくても、学術的な雑談をできたり、学問に基づく会話を堂々とできる。その方法も自然と学ぶことができる。こうした空間が津々浦々にあること自体が地域格差の是正に寄与するだろうし、ここから課題が解決されたり、新しい雇用が生まれることもあると思う。自治空間が存在するメリットは社会が享受できるものなのだ。
今回はここまでです。次回は12/1に公開予定です!
第1回記事リンク
販促!RYOUTONOMY!! 第1回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (目次・第一章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)
第2回記事リンク
販促!RYOUTONOMY!! 第2回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第二章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)
第3回記事リンク
販促!RYOUTONOMY!! 第3回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第三章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)
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販促!RYOUTONOMY!! 第4回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第四章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)
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販促!RYOUTONOMY!! 第6回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第六章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)
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