販促!RYOUTONOMY!! 第4回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第四章)~

販促!RYOUTONOMY!! 第4回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第四章)~

全国学寮交流会誌「RYOUTONOMY」は、2022年に創刊された、全国の学生寮・学生自治空間をめぐる書物です。

富山県・高知県・京都府・宮城県をはじめとする各地の自治空間・実践事例・学生寮等が特集されています。

https://x.com/Gakuryou_Kouryu/status/1608823376281501698?s=20

おかげさまで各地での頒布物は完売に次ぐ完売となり、めでたく第二巻を出版する運びとなりました。

第二巻はコミックマーケット103(2023年冬)にて発売予定です。

本販促企画では、全国の学生寮・自治空間を取り上げた刊行物「RYOUTONOMY」の第二巻刊行記念企画として、昨年度配布した第一巻の記事の一部を加筆修正しつつ、順次公開していきます。

「早く全部読みたい!」と思ったそこのあなた!第一巻の紙媒体はメロンブックスで委託販売中です!是非ともご購入を検討ください。

RYOUTONOMY(学寮交流会)の通販・購入はメロンブックス | 作品詳細 (melonbooks.co.jp)

今回は「今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論」から、第四章をご提供されていただきます。

それでは本文をどうぞ!

[本文]

4.学生自治のメリットその3:ハラスメント・トンデモ対策

 

トンデモ教員やハラスメントに対抗することもまた、現代の学生自治の意義である。学生(や立場の弱い研究員など)はハラスメントを受けやすい。立場の上の人間からの権力に対抗するには組織が必要である。学生等による組織が人事権や決裁権を一部でも持っていれば、ハラスメントに対抗しつつ研究環境・職場環境を改良していくことが出来る。

 より上級の権威、例えば部局長・学長や裁判所を頼る方法もある。当然のことながら、法治国家である日本では、こうした手段が有効であることは多いだろう。ほかにどうしようもない場合もあることは重々承知している。しかしながら、上級権威にのみ頼る方法にはいくつかのデメリットがある

 まず第一に、戦うべき相手が上級権威そのものであった場合、もしくは相手が上級権威と結託している場合、絶望的な状況になる。最も極端な例を挙げれば留学中に本国で政変が起きてしまい帰国命令が出された場合などを考えてみて欲しい20。この場合相手は国家権力となるが、その学生を誰が守るのかという話である。ここまで極端な例でなくとも、例えばアカデミック・ハラスメント(アカハラ)を行う教員が大学の中でも上層部に存在した場合、非常に困難な事態に陥ることは明白である。仮に弁護士を雇えたとしても、弁護士が可能なのは紛争解決のための活動であり、一般的には生活や身分、学問を保証してくれるわけではない。例えば研究環境を失うことになるかもしれないし、結果的に退学を余儀なくされるかもしれない。包括的な学生自身の生活を守るためには実力が必要であり、その実力を担保するのは自治組織ではないだろうか。

 具体例を挙げると、1974年に日本からJICAの研修生として招へいされたS氏は京都工芸繊維大学・京都大学と所属を移しながら研究を継続していた21。しかしながら複数の持病を抱える中で、旧ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻により帰る国を無くし、不可解な在留資格はく奪を日本政府から受け(なぜか発効後半年で在留ビザが切れるという異例の事態である)、京都大学の学籍も失ってしまった。いわば複数の国家権力と大学主流の双方から迫害された状態である(ただし京都大学には懐が深い人もおり、当時の尾池副学長名義での嘆願書が出されていたことは付記しておく)。

 結局京都大学の熊野寮自治会等が入国管理局への抗議運動の中心となり、国会答弁まで持ち込み、住居と生活をご本人が亡くなられるまで保証し、葬儀も行った。こうしたことは実力のある自治組織でなければカバーできない問題であろう。 

 ここまで極端ではなくとも、教職員やスポンサーなど立場が上の人達からの圧力を受けることは、通常の学生生活・研究生活を行っている場合でも程度はともあれ存在する。相手が学長や監事、理事などの大学上層部であった場合どうするのか22。もしくは違法だと明確に立件できるものではないが、全体の暗黙の了解や雰囲気が権力となり抑圧を引き起こすケースも存在する。例えば学生結婚や出産、産前産後休暇や育児休暇の取得時(休学や一時的な退学を含む)を想定していただければと思う。(相当薄れてきたとはいえ、こうした抑圧は2022年現在ですら存在すると言わざるを得ない。筆者は抑圧を消し去る立場に立っている。)

 ルール自体が(明文化の有無によらず)敵に回る場合には、権威に依拠する解決策は非常に取りづらいであろう。そんな時こそ自治組織である。やっちゃえ。組織が守ってくれるよ。既存のルールや権威に過度に頼らず、学生自治により生活を守り、時にはたたかい、交渉し、大学それ自体を主体的に変えていく。それが有益である場合は、実は数多く存在するのだ。

 上級権威に頼る第二の問題点として(これは第一の問題点とも深く関連するのだが)、権威に頼る解決策のみでは、組織体質の改善が難しいことが挙げられる。構成員のモチベーションが上がらないので、原因となる文化や風土などが改善されにくいのだ。大学において、立場が上の人が一切を決め、立場が下の人には黙って従うことを要求する場合、教職員や学生の無力感や不信感が醸成されるという指摘がある23。「立場が上の人」が大学執行部であれ、学外のだれかであれ、結局黙って従えと言っていることに変わりはない。それでは環境の維持発展という難題に立ち向かう気力は生まれてこないのだ。むしろなんというか、上級権威にこびへつらい認めてもらうか、逆に目を付けられないようにやりすごすか、どちらかの心情に偏りかねないのではないだろうか。イノベーションやクリエイションとは縁遠い心理状態である。満足度も下がるだろう。 

 そうではなくて、学生自治により大学に自治空間を作り、自治空間の参加者が自分たちで空間を作れること、改善したいことが改善されること、やりたいことをできること、絶対に他人を尊重する保証の元で動けることがモチベーションの源泉となるのである。たとえ国家権力相手でも堂々と渡り合えるような自治組織を維持発展させられれば、大学のみならず社会をより豊かにするための原動力となるだろう。学生自治にはその可能性がある。

 

今回はここまでです。次回記事「学生自治のメリットその4:市民社会の醸成」は11/20に公開予定です。

第1回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第1回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (目次・第一章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第2回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第2回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第二章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第3回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第3回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第三章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第5回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第5回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第五章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第6回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第6回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (第六章)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

第7回記事リンク

販促!RYOUTONOMY!! 第7回! ~今、なぜ学生自治なのか 学生自治2.0を語る上での基礎理論 (おわりに)~ | 千万遍石垣 (senmanben.com)

 

[脚注]

20.『第154回国会衆議院憲法調査会議事録』5号(2002年4月27日):36、馬杉榮一、発言番号092、https://kokkai.ndl.go.jp/txt/115404184X00520020725/92

21.『第154回国会衆議院法務委員会議事録』16号(2002年6月5日)、https://kokkai.ndl.go.jp/txt/115403968X01620020529

22.「問題点とオピニオン」『岡山大学を正常化する会』更新日:2022年12月4日、最終閲覧日:2022年12月23日、https://oknews0727.themedia.jp/pages/5130558/blog

23.『 第204回国会参議院文教科学委員会議事録』11号(2021年5月11日):16、駒込武、発言番号083、https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120415104X01120210511/83