共産趣味者ブヤコフ=マクシモヴィッチの機関紙 「クマウダ」第2号      ~東国編~ 3/4

共産趣味者ブヤコフ=マクシモヴィッチの機関紙 「クマウダ」第2号      ~東国編~ 3/4

この記事は、Kumano dorm. #2 Advent Calendar 2020の18日目の記事です。

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「クマウダ」第2号 ~東国編~1/4
「クマウダ」第2号 ~東国編~2/4

<「東」の地の職場にて起きたこと(後篇)>

コロナによる在宅勤務期間が明け、6月から再び会社に出社するようになった。再出社初日、私はある案件に取り掛かるよう命じられた。日本より遥か「東」の某国向け案件である。Z氏は言った。

「とりあえず、このメーカーの担当者の〇〇さんに電話しましょうか」

えっ、電話するって何を話せば良いんだ?
この疑問をZ氏にぶつけ、いくつかの助言を得たが、それでも明瞭な指針を得られないままその担当者に架電した。Z氏が横で別の作業をしつつも私に注意を払っているのを感じつつ、私は吃りながら新人感丸出しでそのメーカーの担当者と会話した。やっとの思いで電話を終えた時には、それだけでどっと疲れていた。

この後数週間、体当たりの電話が続いた。そして電話を終えた後、Z氏にこう言われることが次第に増えてきた。

「☓☓について聞いた?」

その☓☓とは事前に聞くよう指示されていた内容というよりは、むしろ話の流れ上聞いた方が望ましいにも関わらず、私の頭が回らずに聞けなかった内容、ということが多かった。私はその度にすみません、と言って謝った。その聞けなかった内容が重要だと思われる場合は再び架電するよう指示を受け、そうでない場合は一旦棚上げ、または次の機会に聞く、という風に処理するのが常であった。初め、Z氏は、次からはそういうこともちゃんと聞けるように、というスタンスであったが、次第に聞くべきことをお前は何故聞けないのか、という私を責めるニュアンスを帯びるようになった。

商社とは、複数の組織の間でモノやサービスを仲介する存在である。必然、扱う商品について、輸送に関して、その他確認することがとても多い。それを一々聞いていくのだから、関係各所に鬱陶しがられかねないし、全ての質問に対して先方が答えてくれるとも限らない。そんな状況で嫌われること無く、必要な情報を全て聞き出す、というのは中々の技術だと思う。Z氏はそれが上手かった。しかし、私は強引に相手を引き止めて何かを聞いたり、相手が答えようとしない内容をなんとか判然とさせることが中々出来ず、Z氏による低評価を招いた。
とは言え、経験と慣れがモノを言いそうな仕事を入社数ヶ月の人間ができないからといって問題視することに強い疑問はあった。また、Z氏の指示はとりあえずやってみろ、という感じで仕事の筋道が不明瞭であることが多く、その結果起きた不足やミスを問題にされているように感じられた。Z氏との間で誤解が発生することも多く、コミュニケーションが大変だった。同期の上司が同期に分かりやすく指示し、説明の丁寧な様子を見る度に上司がその人だったら、と思い辛くなった。

幸い、同期や先輩社員との関係は概ね良好であった。商社で働いているだけあって、皆海外経験が多く、話が面白かった。私の話も面白がってくれたし、私の仕事における窮状を話すと同情してくれた。しかし、Z氏とだけは休憩時間や仕事終わりにそういう会話になることは無かった。

Z氏との関係を抜きにしても、仕事は中々ハードだった。何しろ、地球の裏側のような場所とも電話で連絡を取るのだから、こっちは夜中に電話を架けないといけないこともある。期日に間に合わせるために残業が発生することもしばしば。しかも、関係者の動き次第で突発的な残業が発生することも多く、平日の夕方に予定を入れるのは難しかった。

そんな日々が続く中、夏の盛りは過ぎ、上司達との面談の日がやって来た。Z氏とZ氏の上司の前で私は被告のごとく裁かれた。私はZ氏の上司に窮状を可能な限り訴えたが、Z氏の上司は完全にZ氏を支持する側であり、私はそのことに失望した。上司さえ変われば、という思いがあったので部署異動の可能性も探ったが、それは数年間働いた後でないと難しいことが判明した。面談終了後、Z氏から遠回しな表現で私はこの会社の仕事に向いていない、という旨を告げられた。9月末の試用期間終了時点でのクビもちらつかされた。私はなんだかんだで案件の成功に少なからず寄与していた認識であったにも関わらず、そこまで言われてしまうことがとても不本意だった。その日のうちに、近く退職することを決意し、転職先を探し始めた。

9月上旬、私は遂に退職の意思を上司達に告げた。

程なく、Z氏についた新人は、何人もがすぐに会社を辞めていることを先輩から聞いて知った。

to be continued…

続き→ 「クマウダ」第2号 ~東国編~4/4