【短編小説】シン・懺悔

?章:選択

目の前には白髪の小柄な老人が立っていた。どこからどう見ても…大黒天だ。何故かキンピカの金槌を背負っている。 「あなたはどなたですか。なんですかここは。確かKumano dorm. Advent Calendar 2021の16日目を書き終わって公開し、『主人公が一生十字架を背負っていく鬱ENDを読みたい』という感想をもらい、後日談扱いで千万遍に追記したところまでは覚えてるんですが…………」 「ほっほっほ。妙に説明口調じゃの。」背中のゴールデンハンマーを振り回す大黒天さん。 「もう…なんなんですか。私はレポートとか寮祭総括とか授業(起きられない)とか車の修理とかで忙しいんです。帰らせてもらいます。」 「お主、本当にそれでよかったのか?」 「はい?」 「あの時の事故は、『仲のいい親友』を『苦手な人間』に変えてしまった。お主なりにいろいろ試行錯誤したようじゃが、結局お主はその『苦手な人間』を切り捨てる決断をした。しかしその決断は裏を返せば『仲のいい親友』を過去のものとし、完全に見限るという意味だったのじゃ。」ゴールデンハンマーを強く振り回しながら大黒天さんはこう言った。 「なっ…」 「絶交を申し入れる前にウソ800を作ったのは、結局のところお主の自己保身じゃないのかね。」 「…」 「『自分はこんなに頑張ってるのに、話してくれないゆう君』、という構図を産み出すことで絶交の責任の一部をゆう君に押し付けたんじゃないのか。結局自己満足に過ぎんじゃろう。」 「やめてくれ…」 「人に優しくするのが嬉しいなどと言っておった人間の行動とは思えんのじゃ。ゆう君がお主の立場ならどうしていたと思う?」 「……………」 沈黙が流れる。 どれくらいの時間が経っただろうか。私は口を開いた。 「絶交を突き付けた日の夜、私は誰かに話を聞いてほしいと思った。その時に真っ先に思い浮かんだ顔が俺の親友、ゆう君だったんだ。自分は意識的に、主体的に、自らの手で大事な親友との関わりを絶ってしまったという事実に気づいたときにはもう全てが遅かった。私が愚かだったことに気付いたとき、全ては手遅れだったのだ。」 しばらくの静寂。 「私は、私がどれだけ辛くても、どれだけ負担だと感じていても、「仲のいい親友」の関係に戻るまで、いや戻れなくてもとことんまで寄り添うべきだった。 … … … ゆう君の言ってた『人に優しく』ってこういうことだったんだな。」 刹那、辺りを白い光が包み込んだ。 「ッ!」 まぶしくて目を開ける事さえままならない。頭の中がぼんやりしてきて。原液を薄めすぎたカルピスの甘~い感覚。デパートの香水売り場のきらびやかな香り。曇りの日の散歩中一瞬差し込む太陽光のあたたかさ。砂蒸し風呂に埋まる感覚。寒い中胃に流し込まれるあたたかいハーブティー。意識が遠のく………… ???「『うそえいーおーお』についてワシはひとつ説明を伝え忘れていたみたいじゃのぉ。『うそえいおーお』が本当の効果を発揮するのは『本当の優しさ』に気付いたときなんじゃよ。まあ、もう彼には聞こえてないようだわ カッ」

四章:親友

昼休み、窓の外を虚ろな目で見ているゆう君のところに行った。 「私は秘密道具、ウソ800をGETした!これから私の言うことは全てウソになる!」高らかに宣言し、ウソ800をごくりと飲み干した。そして、こう叫んだ。 「ゆう君は絶対元には戻らない!昔のままのゆう君は絶対戻ってこない!ゆう君とこれからは絶対に一緒にいない!!!!」 きょとんとした顔のゆう君とざわつくクラスメイト。 「ゆう君」 「………ウ……」 「ゆう君!!!!!!!!」 「………..アー….」 「ねえゆう君ってば!!!!!!!!!!!!!!!」 「…………………………………………」 私だってわかってた。ウソ800はドラえもんの世界だけのものだということくらい。サンタさんが実は父さんだってことも知っているし、赤ちゃんをコウノトリが運んでくるわけでもないことも知っている。私はもう子供じゃないんだ。5年生なんだ。本当はこんなことをしても無駄なのは最初から分かってた。でももしかしたらあのころのゆう君ともう一度話せるんじゃないかって。 感情がぐちゃぐちゃになった。 かき乱された感情のうち、最後に残ったものは………… 「なあ!」私はありったけの声で叫んだ。クラスメイトの視線が集まる。 「私はこれまでずっとお前と一緒におった!楽しい時も、しんどい時も、悲しい時も、ムカついたときも!これまでお前に会うのが楽しみで楽しみで毎日学校に来てた!」 「…………ア」 「いまゆう君がこんな状態になってるの、私は正直つらい。こんなん一緒にいて楽しかったゆう君やない。いろいろ気を遣わないかんし、これまで通り楽しく過ごせん!」 静寂が教室を包む。 「それでもな!!!お前は私にとって大事な親友なんや!!!どんだけ辛くても、どんだけしんどくても、どんな状態やっても一緒におるのが親友やろ!!!!私はお前がどんな状況でも、死ぬまで一生親友や思っとる!!!!!」 「…………..ア..ガ…….ウ」 私は目から出る汗で視界がぼやけてたからはっきりとはわからなかったが、ゆう君はいつものようにニカっと笑っていた。少なくとも私にはそう思えた。

5章:独白

そんなこんなあり、私は6年生になった。ゆう君とはクラスが別々になったが、休み時間や塾のない日の放課後はみんなでゆう君のところに行き、最近の楽しかった話や6年2組の武勇伝を語った。休みの日には言語聴覚士の人の所属するNPOを訪れ、どうすればゆう君にとって楽なのかということを聞きに行った。そのかいあってか、ゆう君の喋れる言葉の数はみるみる増えていった。ひとえにゆう君の毎日の努力に依拠するものであろう。何より、ゆう君は私たちと会話するときにどことなく得意げな表情をするようになった。自信をもっているのが伝わる。私にとってこれがなにより幸せである。 少しずつ、でも確実に、ゆう君がなにを言いたいのか分かるようになってきている。一瞬のうちに元に戻る魔法の秘密道具なんてものは存在しない。それでも徐々に、元のゆう君に近づいて行っている。それだけで私は嬉しい 参考「https://www.nk-hospital.or.jp/friends/180906/」「https://www.youtube.com/watch?v=2exGrNysDOU」など